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見たいものが日本に来ない?じゃあ自分が行けばいいじゃない!

Glenn Kotche インタビュー (by WFMT) (また勝手に訳しました)

WFMTはクラシック音楽、芸術を中心にジャズやフォークの番組を流すシカゴのFMラジオ局だそうです。昨年の12月にwebで公開されたインタビューが面白かったのでまたまた勝手に訳しました。

WILCOファンの人と「グレンっていいドラマーだよね!」「すごいよね!」と話すことが多いのですが、すごさの源は単に上手いとかテクニックがあるだけじゃなくて、こういう経験をしてる、こんな人なんだ~、という感じで読んでいただけたらいいなあ、と。

 

Wilco drummer Glenn Kotche on composing from the drumkit, his favorite classical music.

 

ウィルコのドラマー、グレン・コッチェ、ドラムセットでの作曲とお気に入りのクラシック音楽プレイリスト

(注・末尾にURLを貼っていますのでプレイリストにはそこからアクセスできます)

 

 

 作曲家・パーカッショニストのグレン・コッチェはクラシックとロック両分野の「力」(force)である。エネルギッシュなパフォーマンス、リズムに対する知性、創造力にあふれた演奏スタイルにおいて彼は際立っている。彼は2001年以来、シカゴに拠点を置く有名なバンド、ウィルコのメンバーであり、ウィルコは11枚目のアルバムをリリースしたばかりで、12月15、16、18、19日の4日間シカゴシアターにて「Winterlude」と銘打ったコンサート中である。

 

 彼はロックの分野を超えクラシックの勉強もしたパーカッショニストであり、クロノス・カルテット(Kronos Quartet)、エイトス・ブラックバード(eights blackbird)、サード・コースト・パーカッション(Third Coast Percussion)等の著名なアンサンブルに曲を提供してきた作曲家でもある。彼の作曲スタイルは、スティーブ・ライヒ(Steve Reich)、ジョン・ルーサー・アダムス(John Luther Adams)、ジョン・ケージ(John Cage)といった打楽器曲の優れた作曲家たちと重なるところが多い。彼の音楽では複雑だが調和のとれたリズムが強調されており、そのリズムは円熟した迫力とカラフルな色彩へと広がりつながっていく音の世界に包まれている。

 

 コッチェはシカゴ郊外のロセール出身。学校のオーケストラやマーチングバンドで演奏を続け、ケンタッキー大学でミュージックパフォーマンスの学位を取得した。今もシカゴ在住で、「車でも家の中でもいつもWFMTにチューニングを合わせているよ!」とのこと。

 

 WFMTは彼に作曲家・パーカッショニストとしてのキャリアについて話を聞き、おすすめのクラシック音楽Spotifyプレイリストを作成してもらった。

 

 

WFMT:パーカッションの演奏や作曲に熱中するようになったのはいつ頃からですか? 子どもの頃からの音楽教育はあなたの作曲にどのように影響しましたか?

 

グレン:3歳のときから自分はドラマーだって思ってたんだ(笑)。いつもおもちゃのドラムを演奏したりいろんなものを叩いたりしていた。5歳か6歳のときにおもちゃのドラムセットを買ってもらって、まさに「恋に落ちた」。いつも手入れして調整して、きれいに掃除してた。それから、父と一緒によく演奏したよ。うちにはオルガンがあって、僕は父とセッションしたり我が家のパーティーで一緒に演奏したりしていたんだ。4年生の時にロゼール・ミュージック・ストアでのドラムのレッスンを受け始めて、学校のバンドに入れるようになったらすぐに加入した。ロゼール・ミドルスクールのバンドの指導者がロブ・ウィスという素晴らしい方で、僕たちにパーカッション・アンサンブルをやらせてくれたんだ。「5年生か6年生までにはパーカッションの中心メンバーになるよ」って両親に言ったと思う。

その後レイク・パーク・ハイスクールに進学したら、そこにもケン・スヌークという素晴らしい指導者の方がいて、彼は僕たちを単なる「ドラマー」にはしなかった。僕たちに、「自分はパーカッショニストだ」と言いなさい、と要求したんだ。そして僕たちが演奏したのは数々のオペラやクラシックの作品だった。様々な、すべて違う音声を聞いて、そこからアレンジやバランス、フレーズのセンスや風情を聞き取る。それはドラマーとしてはさして重要なことではない、と思うかもしれない。だけどそうやって多彩な違う楽器の音にどっぷりと浸かることによって、作曲するときにいかに違う種類のアンサンブルやパートをすべてしっくりとフィットさせられるかを考えることができるんだ。

 

WFMT:作曲をするときの過程はどのような感じですか? パーカッショニストとしてアプローチするのでしょうか? 

 

グレン:僕の場合は作曲した曲はすべて、パーカッショニストとしての経験から生まれている。僕がドラマーであることの延長線上にあるんだ。自分がドラムセットやヴィブラフォンでやってみたいことからアイディアを見つけるんだよ。その作品の青写真、つまり形式的な構造や展開はドラムセットから得る。それから、その青写真をアンサンブルに編曲していくんだ。編曲の過程で得たいろんな発見に従いながらね。

僕が初めて受けた作曲の依頼はクロノス・カルテットからだった。僕は大学では作曲は学ばなかったんだ。オーケストレイション(注・オーケストラが演奏できるように音楽を編曲し各楽器にパートを割り当てること)と対位法(注・複数の異なる旋律とそれらが作る和音の調和を重視した作曲技法。バロック時代に完成された)の授業は取ったから自分がやっていることはわかっていたけど、パーカッションの曲以外のものを作曲するなんて思ってもみなかった。でもクロノスは全曲パーカッションのために作曲した僕の「Mobile」というソロアルバムを気に入ってくれて、彼らのために弦楽四重奏の曲を書いてほしい、と依頼してきたんだ。僕はこの作曲をどういう風にやればいいのか、どういう風にやりたいのか、真剣に考えた。そして、「自分は誰なのか、自分は何なのか」ということに忠実であり続けなければ、と考えついたんだ。僕はドラマーだ。僕には、時には独立して動き、時には揃って動く4本の手足がある。まるで弦楽四重楽団のように。だから僕は、4本の手足がそれぞれ弦楽四重奏の4人のメンバーだ、というアイディアを追求していった。その結果がアルバム「Adventureland」に収録されている「Anomaly」という曲なんだよ。

 

WFMT:作曲家としてのかたわら、他の作曲家が作った曲の演奏者としての役割も果たしていますね。ジョン・ルーサー・アダムスやミッシー・マゾーリ(Missy Mazzoli)、スティーブ・ライヒといった人たちと仕事をするのはどのような体験でしたか?

 

グレン:本当に素晴らしい体験だったよ! 他の作曲家の心の中に入って彼らを「導師」とすることは、自分の演奏と作曲にこれまでとは大きな違いをもたらした。彼らの解釈や方法論について深い理解を得ることができるから。一方で、上手く演奏することについてのプレッシャーもより大きくなると思う。自分でも作曲家が演奏者に何を期待するかがわかっているからね。僕は演奏の準備には多くの時間をかけるけれど、それは最高の学びの経験なんだ。

 

WFMT:インスピレーションを得るためによく聞く作曲家はいますか?

 

グレン:その質問の答えは「ジョン・ルーサー・アダムス」でなければならないだろうね。彼の音楽には本当に興奮させられる。どの曲もアイディアはシンプルなんだけど、完成した結果の曲は驚くべきものだ。これはどうやったんだろう? こっちはどうやったんだ? っていつも思うんだ。彼の音楽を聴くときはいつも、自分にたくさんの問いを投げかけてアイディアをもらう。でも同時にとても楽しんでいるんだ! 僕は自分が常に彼の音楽に戻っていくことを発見する。人生の素晴らしいサウンドトラックだ。それから、彼の一貫性と多様性ときたら…。まさに僕にとって最初で最後の作曲家だよ。

 

WFMT:クラシック音楽のリスナーを増やす最良の方法は何だと思いますか?

 

グレン:まずは、もっと冒険的なプログラムを組むことだと思う。オーディエンスの幅を広げるためには、違うジャンルの人たちを引っ張ってきてコラボレートするんだ。僕にも経験があるけど、僕がオーケストラのホールで演奏すると会場にウィルコのファンが来てくれる。もちろん、ザ・ナショナルのブライス・デスナーやアーケイド・ファイアリチャード・リード・パーリー、レディオヘッドジョニー・グリーンウッドの場合も同じだよ。こういうクロスオーバーは普段はコンサートホールに来ない人たちを連れてきてくれると思う。それに実際そうやって作られる音楽は素晴らしいしね。それから、シカゴ交響楽団がやっているサロン・シリーズやミュージック・ナウ・シリーズのようなイベントは、オーディエンスの幅を広げる素晴らしい試みだと思う。彼らは大きいコンサートホールで伝統的な表現をすることができるけれど、これは僕たちがやっていることの延長で、人々を新しい音楽へと向かわせる試みなんだ。新しいオーディエンスに手を差し伸べるこういう行動が組織やオーケストラにとっては重要なんだよ。

 

WFMT:音楽を仕事として追求したい人へのアドバイスをお願いします。

 

グレン:まず第一に、耳を開くこと(Have open ears)。すべての音楽を聞き、排他的にならないこと。砂の上に線を引いて「これしか聞かない、この時代の音楽しか聞かない、この作曲家の曲しか聞かない」なんて言ってはいけない。僕は本当に、ものすごく古いものからとても新しいものまで世界中の音楽を聞いている。いろんな「違う」音に対して耳を開放することで本当にたくさんのインスピレーションが得られるんだ。

そして、もし君が本当にプロのミュージシャンになりたいなら、自分の周囲に人が寄ってくる人間にならなければいけない。可笑しく聞こえるかもしれないが、わがままで批評を受け付けない人間と一緒に仕事をしたい人はいないだろう? シンプルなことだよ。時間を守る、十分に準備をする、確実にいい音が鳴らせるように楽器を手入れする、礼儀正しくフレンドリーでいる。いろんなジャンルのたくさんのミュージシャンと仕事をしてきた僕の経験において、これは成功への道となる確率が高い明らかな事実だよ。

 

 

※元記事はこちらです。 

https://www.wfmt.com/2019/12/18/wilco-drummer-glenn-kotche-on-composing-from-the-drumkit-his-favorite-classical-music/

 

(2019年12月18日掲載)