心はマリー・アントワネット

見たいものが日本に来ない?じゃあ自分が行けばいいじゃない!

Wilco's Glenn Kotche / Modern Drummer Magazine インタビュー その4

MD:ドラムセットは均質なものへと変化した、ということですね。20世紀半ばまでには、基本的には同じものにまとめられた、サイズの違う一揃いの楽器とシンバル、という本質的には同じもので構成されている。(たくさんの楽器の集まりだったものが)「ひとつの」楽器になったんだ。

 

グレン:そういうこと。それには実際的な理由もあったんだ。移動に関する理由と経済的な理由だね。全く理にかなっている。でも僕は、ドラムキットを彫刻的に考えるのが好きで、違う配列でセットアップできる、と思うんだ。いろんなコラボでコンサートをやるけど、毎回僕のドラムセットは全体的にがらっと違うように見える。なぜなら、必要とされるものはそのときによって違うから。ウィルコのライブのときでさえ、すべてのアルバムのサイクルに合わせてドラムセットの外観は変わる、毎回新しいことをやっているし、同様にもう必要ではないものは取り除いているからね。今はそれも昔よりは簡単だよ。ものすごくたくさんの種類の商品やいろんな種類のシンバルがあって、全部違う音がするから。最近では、ソロの作品ではセンサリー・パーカッション・システムを追求してるんだ。今や、どんな音を出せるかっていう可能性は無限大だよ。次のソロプロジェクトはよりマルチメディアを基にした方向になる。今はドラムからそれができるんだ。一人のドラマーになる代わりに、ショー全体のコントロールセンターになることができるんだよ。

 

MD:ジェフ・トゥイーディの自伝の中で、彼はアコースティックギターをとても小さい音で演奏する方法について書いています。ウィルコの他のメンバーが出す音の中でのあなたの音、という観点からの考えを聞かせてください。

 

グレン:確かに僕の音はバンド全体の中で必要とされる役割を果たさなければならない。ジェフがギターをとても小さい音で鳴らすのには彼独特の理由があるからだ。明るくて大きく鳴り響くギターの音は、彼の声には合わないから。僕がジルジャンのドライフィット・シンバルを使うのは、音が消えるのがとても早いから、それと、暗い音が音楽により合っているからだ。もし他の「普通の」シンバルを使ったら、バンドのメンバー達は頭がおかしくなってしまうかもね。彼らも僕と同じように暗めの音の方が好きなんだ。他のたくさんのドラマーも同じだと思うよ。特に最近はね。現在はシンバルの黄金時代だよ。素晴らしいよね。

 

 それから僕は半分以上の曲でRoots EQ(注・ドラムヘッドの上に置いて音のトーンを変化させるためのリング状の布)も使っている。リンゴ・スターがティータオルを使ってたみたいに、ちょっと変わった音色を出すのにいいんだよ。嬉しいことに、僕の新しいドラムセットのスネアドラムは8インチの深さがあるんだ。ウィルコの音には高い音のスネアは合わないからね。8インチあれば深い音が出せるし、叩いたときすぐに反応が来る状態にドラムヘッドの張りを保っておけるから演奏していても楽しいんだ。

 

 それと僕は大抵「店で買ってきたまま」の音は避けるようにしている。これは僕のデュオ、オン・フィルモアでの「教義」みたいなもので、リスナーが音を聞いて即座に「ああ、これはエッグシェイカーだね」なんてわかるような音はない。たくさんの、本当に古いスレイベルやタンバリンやシェイカーや、全部どこかの土地に土着のものか、自分でカスタマイズしたものを使ってるんだよ。その上、僕の特製スティック(注・プロマーク社のドラムスティック・シグネチャー・シリーズ、グレン・コッチェ・モデル)と、レコードではアンティークのブラシやマレットやスティックを使っているんだ。

 

 誕生日に奥さんが1918年頃のドラムセットをプレゼントしてくれたんだよ。スネアがWFLかLudwig & Ludwig(注・どちらもアメリカの打楽器メーカー)のもので、バスドラムは古いマーチングバンド用のものでヘッドに絵が描いてあって、ふたつの  チャイニーズ・タムターキッシュ・シンバル入れ子になったカウベルラチェット---本来は劇場で使われていたセットなんだ。同じ時代のマレットやスティックで叩きたいなあと思ったから、シカゴのドラム・ショーやポートランドリバイバル・ドラムショップに行ったときに、オーナーのホセ・メデレスに「君のところではどんなアンティークのブラシやスティックを扱ってるの?」って聞いてみるつもりなんだ。

 

 それから、ツアーでヨーロッパや南米に行くと、楽器店でこっちとは違うものを扱ってるんだよね。ライブの時はほとんど全部プロマークの製品を使ってるんだけど、向こうではポルトガルのマーチングバンドが使ってるちょっと変わったスティックや、ハンブルグのショップには手作りのスティックなんかもあったりして、そういうのを見つけるのがすごく楽しいんだよ。この金属製のハエ叩き、ドイツのこのメーカーから買ったんだ。元々ドラム用のブラシってハエ叩きだったんだよね。でも僕はこの中のいくつかは長さを半分にカットして使ってるんだ。だから、これはこんなに小さいけど、ヘッドの部分はすごく大きくて、他のブラシを使う時とは全く違う音が出せるんだ。それにこれには頭と根元があるから、くるっとひっくり返して使えばさらに違う音が出せるんだ。

 

 こういう一般的なブラシでさえ、どうやって使うかで違いが出てくる。それに昔のブラシは今の物とは違う太さの針金を使っていたかもしれない。(アンティークの)スティックは壊れやすくて脆いけど、いつもとは違うプレイができるんだ。新譜を作るとき、僕はこういうアンティークの物を使うとどんな風になるのか見てみたかった。僕はブラシを使って叩くのが単純に好きなんだ。ジャズの文脈から外れても、とても「使える」んだよ。最近作ったどのアルバムでも最低1~2曲はブラシで叩いてる。このウィルコのレコードでは、ときには今までと違う音を出すためだけに、3~4種類の違うブラシを同時に使ったりした。一度にスティックを何本も持って叩いたりね。たとえそれがほんの少しだけいつもの常識の枠から外れることにすぎなくても、プレイヤーはどんなに驚くだろう---? そしてその動揺がすべて音に影響を与えるんだ。