心はマリー・アントワネット

見たいものが日本に来ない?じゃあ自分が行けばいいじゃない!

Wilco's Glenn Kotche / Modern Drummer Magazine インタビュー その5

MD:僕たちはドラムの音の違いについてはとてもたくさんの話をしてきたけれど、「何で叩くか」が大きいんですね。

 

グレン:大学卒業後、90年代後半のほとんどを、ポール・K&ウェザーマンやバードドッグ、ジム・オルークのようなシンガーソングライターたちとツアーをしていたんだけど、その頃は2ピースのキットを使ってたんだ。フロアタム一つとビーター(注・バスドラム用のバチ)が下に付いているカクテルキット、スネアドラムとハイハットに、たぶんシンバルも。僕たちはレンタカーでツアーをしていたからね。だから僕はドラムを2つしか持っていなかったから、いろんな種類のロッド(注・細い棒を束ねた形のスティック)やスティックやブラシやマレットや、ドラムの上に乗せるいろんなものを使ってた。そうすることで一曲ごとに音を全部違わせることができたんだ。そのことが今僕がやっていることに発展してきたんだよ。

 

たぶんこれは大学時代に、ジム・キャンベルのクラシックの授業での練習が基になっていると思う。吊るしたシンバルをいろんなマレット---フェルトや毛糸やゴムなどの---で叩きながら、パーカッションアンサンブルに一番ぴったり来る音を出す道具を探していたんだ。ラジオシティ・ミュージックホールで会ったとき、僕はテープで束ねたブラシやナイロン製のブラシ、シェイカーやコインやテープでカスタマイズしたワイヤーブラシなんかを使っていたよね。

 

いろんな種類のロッド、分厚いのや薄いの、多種多様なロッドを同時に使うんだ。僕はプロマークが作ってくれた2種類のドラム用のマレットのセットを持ってる。自分モデルのシグネチャー・スティックを使うことが多いけど、たった1曲だけのために先にフェルトが付いているプロマークのSD5や7Sを使うこともある。自分でテープでまとめたへらも持ってるし、先端に穴をあけてばねを通したロッドも使う。

 

他の楽器のプレイヤーはギターを何回も変えるし、皆エフェクターを使っている。キーボードは無限にセッティングできる。じゃあ、なぜ、ドラマーは違う曲をやるのに同じ音なんだ? それが、アシュウィンがステージにやってきて、この曲のためにシェイカーやベルやタンバリン---鈴が1列のや2列の---をハイハットの上にセットする理由だよ。僕たちはハイハットに乗せるもののバリエーションを6~8通り持ってる。シズラー(注・シンバルに取り付けるエフェクター)を取り付けたり外したりね。

 

MD:マーチングマシーンについて聞かせてください。

 

グレン:基本的には、行進する足音を再現するために木枠にたくさんのダボ(注・工事のときに木材や石材をつなぎ合わせる際、部材間のずれを防ぐために接合面の両方に穴をあけて差し込むための小片)を紐でつなぎ合わせたものなんだ。ダボが木板の上に落ちるときにざわめくような効果音が出せる。子どもの頃、僕はドラム&ビューグル・コー(注・太鼓とラッパの軍隊=マーチングバンドの形態の一つ。アメリカの軍楽隊様式のバンドスタイル)をいくつもやった。キャバリエズと一緒に演奏したし、サンタクララ・バンガードのショウを見たことも覚えてる。---実際には僕はまだほんの子どもで、マーチングバンドに加入する前だったけど。彼らはピットのサイドラインの外側でマーチングマシーンを使っていた。手で持つタイプのをね。そして僕はすごくかっこいい音だと思ったのを覚えてるんだ。

 

何年もたってから僕は偶然マーチングマシーンを見つけて、自分のスタジオの壁に掛けていた。そしてある日、ウィルコのセッションに行く前に、使えそうなものをたくさんピックアップした。アースプレートと、あれと、これと、みたいに。そのとき、マーチングマシーンを木板の上にではなくコンサート用のバスドラムの上に平行にセットしてみたんだ。ジェフもトムもめちゃくちゃ気に入ってくれたので、バスドラムの上で少なくない回数使ったし、スネアドラムのような音を出すためにピアノの椅子(ベンチ)の上でも使った。それから、他のバスドラムやスネアドラムと一緒にも使った。元々の音をはっきりさせないためにね。

 

現代では、ライブでやるときはサンプリングすればいいんだけど、それよりも実際の演奏でうまくやり遂げる方が面白いしチャレンジし甲斐があるだろ? だから、ジム・キャンベルの息子のコリンに、マーチングマシーンをツアーに持って行って使えるような器具を作ってほしいと頼んだんだ。コリンは木工の天才で、サード・コート・パーカッションと一緒に仕事をしているんだよ。それからアシュウィンも彼に協力して、彼らは小さいマーチングマシーンに手を加えて、ハイハットを操作するケーブルを繋いで、僕が足で操作できるようにしてくれたんだ。それから、僕はSonorが特注で作ってくれた4×16インチのタム、基本的には頑丈なハンドドラムみたいな形のを持ってるんだけど、それがマーチングマシーンを乗せておくものになったんだ。

 

MD:どちらの足で演奏するんですか?

 

グレン:右足だよ。僕はペダルを4つ持ってる。右足はバスドラムのペダルとマーチングマシーンのペダルを行ったり来たりして、左足はハイハットとフットカバサ(注・ブラジルのパーカッション、カバサを足で演奏できるようにしたもの)。フットカバサは、たとえば「Citizens」のような曲で、レコードのドラムマシーンやブラシのパートを再現するために使うんだ。今はたった1曲のために使う、手で持つタイプのマーチングマシーンも持ってるよ。フロアタムの上に丸い木のプレートを置いて、その上にマーチングマシーンを落とすんだ。

 

自分だけの道具を作ることは誰にとっても役に立つと思う。人に教える機会があるときはいつも学生たちにスティックやマレットを自作するか改造することを強く勧めるようにしているんだ。(注・グレンはシカゴのイリノイ大学でパーカッションの授業を持っていたことがあり、現在も時々特別講義をすることがあるらしいです。)本当にクールな、自分たちのヒストリーになる音を作ったりカスタマイズしたりすることには大きな意味がある。それに若いドラマーたちにとっては、音に対してより意識的になるという点で重要なことなんだ。

 

僕は実例を示すことでドラマーの創造性を刺激したいんだ。僕が一番最近出した本「A Beat A Week」はいろんな例を示した本なんだ。このビートはスティール・バンド(注・トリニダード・トバゴ発祥の、ドラム缶で作った楽器・スティール・パンのバンド)で演奏した曲からできたもの、これはティンパニの演奏からできたもの、これを演奏したのは、エルヴィン・ジョーンズがどうやってトップシンバルのビートを解釈して演奏したかを学んだから、それからこのロックの曲では、このビートをフロアタムで演奏した…等々。僕の望みは、読者がこのクールなビートを学ぶことだけど、それとともにこのビートに興味を持つ精神性をも学んで、そのビートの観点や見地を自分の演奏に取り入れてほしいんだ。

 

MD:そのような多様な興味の出口を自分が持っていることを、レコードを作るキャリアの早い時期に気が付いていましたか?

 

グレン:うん。たくさんのシンガーソングライターたちが、僕が最小限のドラムキットとシェイカーやジングルなどの装備でやっていたのを気に入ってくれたときにわかったよ。それと僕は大学を卒業してからたくさんフリー・インプロヴィゼイションや音の探求やエレクトロアコースティックもやった。「Monkey Chant」で使って、今も使っているプリペアド・スネアドラム(注・スネアドラムのヘッドにいろいろなギアを取り付けたもの)を考え付いたのもその頃なんだ。だからこれはテクニックやビートの問題じゃなくて、いやテクニックやビートも大好きなんだけど、もっと音の探求についての話なんだ。

 

(続く)