心はマリー・アントワネット

見たいものが日本に来ない?じゃあ自分が行けばいいじゃない!

Jeff Tweedy インタビュー  その2/ Rolling Stone 2020年7月

RS:声明を出してからどんな反応がありましたか?

 

Jeff:本当に、とても好意的に受け止めてもらえたことに勇気づけられたよ。今までも何回も社会的・政治的な議論に切り込んだことがあったんだけど、今回のようにうまくいったことがなかったんだ。でも今回の反応と、仲間からの支援や反応がなかったことにほんの少し失望したのは認めなくてはならないね。非難するようなことは決して言いたくない。なぜならこれは「俺が」発言したことなんだし、最良の考えだとも当然思えない。自分とは違う方向に進もうとしている「誰か」の連帯保証人になるのは難しいと思う。

俺が関わり始めたことについて俺たちは明らかに前進しているし、ブラックコミュニティのリーダーたちや、管理や運営を手伝ってくれたり財産の信託者による何らかの委員会的なものになってくれたりするような音楽業界の人たちと連携していけたらと思っている。まだ始めたばかりだし、短期的に見てもBMIと共にできる最善のことを話し合う機会はまだあるし、そこから始めたい。なぜならそこが今俺がいるところだから。この種のことをやるのを躊躇してきた理由の一つは、自分はこういうことが特別上手いわけではないと感じるからなんだ。俺は、そういうまとめ役的なタイプじゃないんだ。正直に言って今のところ本当にまだこの件に関しては学んでいる途中だし。

 

RS:今後の行動と進もうとしている方向についての声明を出す前にたくさんの人に相談したのではないかと思いますがどうですか?

 

Jeff:実を言うと、俺の声明を手引きしてくれて最初の段取りを一緒になって手伝ってくれたのはうちの息子たち、スペンサーとサミーだったんだ。彼らは二人ともこのコミュニティと理念に深く関与しているんだよ。他の多くの白人の人々同様、良き支持者であろうと努め、前進するための自分の役割は何かを理解しようとしているし、いろんな意見を聞いてフォローすることを推奨している。白人のアーティストにとっては、対話を始める者としてこの問題についてオープンに発言して取り組んでいくことが大事だと思うんだ。

 

RS:全国的なものにせよ音楽業界に特化したものにせよ、賠償というアイディアを認めて理解するようになったのは大人になってからですか? 20代の頃はこの件について何か考えていましたか?

 

Jeff:いつも何かしら考えていたよ。「たしかに、勢いよく前進する進歩的な理想にあふれた業界で、社会のいろんな立場の人々との融合のまさに最前線にいるんだし、音楽ビジネスには誇るべきところもたくさんあるよな、俺の考えでは…」みたいに。そういう点においては音楽業界が導いてきたことを誇りに思うこともできる。でも(差別の実態の)全体像に関わろうとしなければ、その誇りも長くは続かない。俺にとっては、その全体像はこの国で金融と経済において物事がどのように展開されてきたかが含まれている。

今現在、資本主義者の構造そのものに圧力をかける戦術や継続的な努力が存在する。そしてビジネスや産業に最大限の圧力をかけたりボイコットしたりすることを通じてこれらの諸問題に取り組む試みもある。選挙に基づく政治活動は基本的にとても動きが遅いから、それを避けた動きなんだ。ジョージ・フロイドと共に俺たちが生きているこの瞬間に、つまり彼の殺害後に起こったこの抗議活動に、俺が自分の声と発言できる立場を使わないことになんの言い訳もできない。今はそういうときなんだ。「皆わかっているだろう? 賠償することは素晴らしいアイディアなんだ」って。

 

RS:以前あなたは、この業界は今でも黒人アーティストにとって不平等な試合場だと言っていました。そのようなことが起きるのを、個人的にはどういう風に目撃したことがありますか?

 

Jeff:黒人アーティストが白人アーティストと同じようにはツアーができないのを実際に目撃したよ。彼らが同じ会場を利用できるなんて俺は信じていない。フェスティバルでさえも多くの場合「HIP HOP DAY」みたいに明示して巧妙に分断している。音楽業界は「HIP HOP DAYは6時までに終わらせてほしい」と望むような社会と戦うつもりはないんだ。俺が育ったのはセントルイスの近く、イリノイ州のベルヴィルという町で、イースト・セントルイスの隣で十分なサービスがないコミュニティなんだけど、そこにあった類のと同じ不公平だ。そこで育って、俺たちのフットボールチームがイースト・セントルイスのチームと試合をしたとき、それは絶対に金曜の夜じゃなかった。いつも土曜の午後だったんだ。こういうことと同じ種類の巧妙な支配と不信のコミュニケーションが、そのまま結果として今日の音楽ビジネスに存在しているんだ。(注・イースト・セントルイスは黒人の住民が98%を占め、スラム化した治安の悪い地域とされています)

 

RS:この時代に白人アーティストの仲間たちとどのようなコミュニケーションをしたいですか?

 

Jeff:白人アーティストたちが本当に取り組まなければならないことは、この社会のすべての人々が取り組まなければならない問題と同じだよ。それは「強欲(Greed 注・聖書の七つの大罪の一つ)」だ。「強欲」がこのたくさんのクソみたいな問題の中心にある。強欲が実際に君に何をもたらすかを考える君の心に、今すぐにでもちょっとした革命を起こさせようとしている。芸術や魂やアイディアのようなものの所有を主張し、それらを経済的な報酬と結びつけることが問題の根っこにあるんだ。強欲という問題に取り組みたいと思ったことが、俺の声明の一部にこの問題も入れたいと思った理由でもある。

 

RS:あなたはメイヴィス・ステイプルズと一緒に3枚のアルバムを制作しています。あなたの声明を読むと、ステイプルズが一緒にツアーをした白人のミュージシャン仲間たちに今でも頻繁に心を開いているかを考えずにいられませんでした。これだけの年月が過ぎていても、またそれがヴァン・モリソンボブ・ディランやブランディ・カーリーだったとしても。

 

Jeff:ほとんどすべての黒人ミュージシャンにとって、成功するためにはほぼ全面的に白人のオーディエンスを得ることが必要とされた。そしてこのことが俺たちがさっき話していたことなんだ。どんな種類の会場に出演できるか、彼らのブラザーやシスターたちがどの経済的位置に属しているか。彼らのコミュニティの多くはコンサートを進行させるのに十分な自由に使える可処分所得を持っていなかった。

 

RS:黒人アーティストたちは自分のレコーディングのマスターテープの所有権を負債としている、という話も最近ありました。(注・所有権を担保にして借金をしているため、借金を返せなかったら所有権を失ってしまう、ということかと思います。)非常に多くのアーティストたちが何百万ドルもの未払いの印税を失っています。

 

Jeff:皆が想像するよりも多い金額だよ。出版業界(注・この文脈ではレコード会社やテレビ局、映画産業等と思われます)は毎年何十億ドルもの金が動く世界なんだ。テレビをつけて2,3分コマーシャルを見てみて。テレビを1時間見るかまたは映画に行く―この国のカルチャーのエンターテインメントを何時間か見てみてほしい。そうすればほとんどすべてのこの国の芸術を通る1本のまっすぐな線を黒人コミュニティに向けて引くことができる。アメリカのカルチャーは黒人のカルチャーなんだ。このことについて発言するのは俺の立場ではないけど、印税の盗難は未だに取り組まれていない犯罪だということはリアルな現実なんだ。

 

RS:現在あなたが音楽業界の出版部門に特に焦点を当てているのは、この部門にとても大きい額の金が賭けられているからですか?

 

Jeff:うん、そうだね。俺にとっては「レッドライン(注・越えてはならない一線)」を越えることと同じなんだ。黒人兵士たちが第二次世界大戦から帰還したとき、アメリカが富を蓄積して貧困から脱出しつつあったそのときに、多くの黒人たちはその機会に恵まれなかった。なぜなら彼らは街の同じエリアに住居を購入することを禁じられていたから。彼らの富を蓄積する能力を抑える法的手段が存在したんだ。同様の、なかば法的手段と化した不公平なシステムが黒人アーティストたちに対して使われてきたんだ。

そう、だから、論理的な結論はこうだ。ビッグ・ママ・ソーントンがもしも正当に支払いをされていたら、この世界はどんなものになっていただろう? 奴隷制度から発生して多くの白人たちに莫大な富をもたらしたアメリカ最初の巨大な文化・音楽のムーブメントだったミンストレルショー(注・白人が顔を黒く塗って黒人文化の要素を含む音楽や踊りを見せたショー。1830年代発祥)までさかのぼって、もしも黒人アーティストたちに賠償がされていたら、この世界はどんなものになっていただろう? ロックンロールの時代やジャズの時代だけに限ったことじゃない。俺はチェス・ブラザーズ(注・1950年にチェス兄弟がシカゴで創立したレコード会社。マディ・ウォーターズチャック・ベリーハウリング・ウルフ、エタ・ジェイムズ等が在籍し、ブルースやR&Bのレコードを出していた。ドキュメンタリー映画「キャデラック・レコード」有り)がマディ・ウォーターズと交わした劣悪な契約だけに線を引いたりはしないよ。

たとえ誰かが俺を手当たり次第に撃とうとしても、俺の欠点のあるアプローチについていろんな違う種類の討論を起こせるってことがわかったんだ。俺に対する評価が不正確なものだとしてもね。皆がどんな議論をしようと、俺は受け入れることができるよ。でも俺は100%本気だ。自分の役割を果たしたいし、どうにかしてこの問題を解決しようと思っているんだ。

 

(終)