心はマリー・アントワネット

見たいものが日本に来ない?じゃあ自分が行けばいいじゃない!

SPIN Wilco interview 2019/9/25 その2

SPIN:ジェフ、あなたは以前、他の人たちが作った音楽に対する熱意を維持する重要性について話していましたが、どうやってそれをやっているのですか?

 

トゥイーディ:とても単純なことだよ。もし君が子どもの頃の俺に「毎週金曜日に発売されるシングルを、ほとんど全部、実質的に無料で聞くことができるよ」って言ったら、俺は正気ではいられなかっただろうな。当時の俺は音楽について雑誌で読んだことを調べるためにとてもたくさんの時間を費やしていて、行きたいと思ったほどレコード屋に行くことができなかった。情報を得る手段がなかったんだよ。

 

俺は、他の人たちが作った音楽に熱狂する心を持つ、いまだに俺の中で生き延びようとしている15歳の自分に敬意を表したい。だから毎週金曜日は座って一日中レコードを聴いてるんだ。少しはリサーチもしなきゃならないし。ストリーミングサイトは発売されたものを全部教えてくれるわけではないからね。彼らはほんの少し手を加えているから。でも素晴らしいよ。ガース・ブルックスの新譜がどんな感じなのか一銭も払わずにチェックできるんだから。何だってディグれるんだ。

 

(ストリーミングは)アルバムのジャケットだけを頼りにレコードを買って家に持って帰って得るあの驚きをもう一度作り出す効果的なやり方なんだ。いつも俺はまだ聞いたことのない、どこで誰が作ったのかわからないたくさんの曲を発見するんだ。ほとんど毎週金曜日、すごくエキサイティングになっている。俺にとっては奇跡みたいなものだよ。

 

SPIN:私が知っている多くのミュージシャンたちの間では、そういう奇跡的な感覚―今までに作られたすべての音楽をリスナーとして手に入れることや、ミュージシャンとして世に出すことができるという―と、かつて人々が生計を立てていた主なやり方の一つをしゃぶりつくしてしまう、という認識の間で意見の対立があるように思います。ストリーミングの成長はミュージシャンとしてのあなた達に物理的な影響がありましたか? また、バンドとしてのWilcoのやり方に変化はありましたか?

 

トゥイーディ:明らかにストリーミングはいろんな点で音楽業界を大きく変えた。でも俺はいつも、物事が変化するときに悲観的な予想をするのは気が乗らないんだ。何らかの方法で、どこかの時点で、もっと公平であるべきだと思う。でもそれを眺めているのは奇妙な感覚でもある。かつて、ある曲がラジオでオンエアされたとき、何人の人がそれを聞いているのかはわからなかった。ある程度推測はできたけどね。ストリーミングにおいて、ラジオのトップ40で1日に3回オンエアされることに相当するのは何だろう? 100万再生? そしてもし1再生ごとに分けるなら、それはラジオのオンエアとどう違うんだろう? 明らかに、もうレコードは買わない、という人たちもいる。それはとても大きな変化だ。ラジオはレコードを売る宣伝のために曲をかけていた。そしてストリーミングはレコードを売る宣伝になるとは思えない。

 

でも制作の手段がすべての人々の手に渡った、ということも併せて受け入れる必要がある。俺が子どもの頃はレコーディングスタジオに入るなんて全くの問題外だった。でも今、俺の息子たちは、彼らが「俺の」息子でなくても、レコードを作ることができる。実際に作ってるよ。2人ともレコードを出してるんだ。彼らはレコードをbandcampとApple Musicにアップしている。俺が子どもの頃と比べたら民主的な光景だよ。それにこれも言っておかなくちゃならないけど、俺が子どもの頃と比べたら、今はライブをやる場所も多くなっている感じなんだ。

 

だから俺は音楽に関しては決して心配していない。音楽はこの先も繁栄する。アーティストも繁栄する。人々はブレイクスルーする方法を見つけるだろう。わからないけどね(注・ジェフはよく口癖のように「I don't know」と言いますが、これは関西人の「よう知らんけど」みたいな感じかなあと思っています)。でも思うんだけど、皆が俺の音楽にアクセスしやすくなるんだよ。ギターの形のプールを家に作るよりずっと簡単にね。言ってることわかるだろ? 俺たちはそれが実際に可能な時代の最後の最後に来ているんだ。バンドが重くて大きいレコードを出すことができる時代のね。

 

SPIN:Wilcoのファーストアルバムから24年、ネルスの加入から15年ですが、あなたたちはいわゆる「バズるサイクル」の完全に外側にいますが、ひじょうに根強い、忠実なファンがいますよね。バンドとしてやっていく上での体験は初期の頃と今とでは違うように感じられますか? 今の方が良くなった? 失ったものはありますか?

 

トゥイーディ:いろんな理由があるけれど、俺の目から見たら全体的に良くなっていると思う。Wilcoは実際バズったアルバムは1枚しかない。いや2枚かな、多分。俺は常に自分はクールなキッズたちにとって重要なものからは少しだけ外れているな、と思ってたよ。他の人たちがどう思ってるかはわからないけどね。でもUncle Tupeloだって、あの頃は全然クールじゃなかったんだ。Dinosaur Jrなんかのあの界隈のバンドと比べたらね。

 

そうは言っても、単純にいつも同じことをやって忠実なファンに受け入れられたいなんて俺は思わない。俺は全てのアルバムと、全ての曲を演奏できるような可能性を見渡して、注意を引くことが可能な限り多くの人たちに手を伸ばしてつながりを持てるようにしている。そうでなければどんな意義があるのかわからないよ。俺は思うんだけど、バンドのすべての時期において、古いファンを失う危険を冒しても、新しいファンに手を伸ばす努力をするべきなんだ。

 

SPIN:この10年かそこら、古く忠実なファンを失うリスクを冒していると感じた瞬間があったんですか?

 

トゥイーディ:彼らが去ってくれないかと思った瞬間が何回かあるよ。

 

クライン:私が加入したとき君がこう言ったのを覚えてるよ。新しいアルバムを出すと一定の人数が逃げ出していく。代わりに新しい人たちが入ってくるんだ、って。今それが本当かどうかはわからないけどね。

 

トゥイーディ:今では本当ではないね。今は何が起こってもついてくる一定のファンがいる、って感じだ。彼らは条件づけられてるんだ。そうでなければ、彼らがバンドについて気に入っていることは「いつも同じ」ではない、ということなんだろう。実際俺たちは「いつも同じ」ではないしね。

 

クライン:それに今では家族全員でライブに来る人たちもいるね。今までは見たことがなかったよ。

 

SPIN:私は以前両親と一緒にWilcoのライブに行ったことがありますよ。

 

トゥイーディ:それは微笑ましいね。そういうコミュニティでは問題を起こしようがないだろう? 世代間を繋げる橋があるんだよね。でもそれは不自然な状態なんだ。たとえば、誰かの家族の一部になるような「何か」と競合するようなアートの新しい欠片をもって、自分自身に挑戦し自分自身と競合する。たぶんそれが、ごく一部のオーディエンスと繋がることを拒絶する大きな理由のひとつなんだよ。俺はその状態でいることが快適だと感じすぎないようにしているんだ。そこよりも先の地点にたどり着きたいからね。

 

(続く)