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Wilco's Glenn Kotche / Modern Drummer Magazine インタビュー その1

アメリカの「Modern Drummer Magazine」2020年4月号はグレンが表紙で大きく特集が組まれ、ロングインタビューが載っています。グレンがこの雑誌で表紙を飾るのはこれが3回目とのこと。インタビューはとても長く、グレンもノリノリで喋りまくってる感じで楽しそうで、訳していて私も楽しかったです。雑誌の性格上、読者はもちろん編集部もライターさんもひょっとしたらカメラマンさんも実際にドラマーで、ドラムやパーカッションをとことん愛しているのだろうなあ、と思わせられました。すごくツーカーな雰囲気がいい感じです~。

ということでまた勝手に訳しました。誤訳、誤字脱字があるかと思いますがご容赦ください。

(元記事の最後に、グレンが新譜の曲をステージで再現するためにどうやったか、を実際に演奏しながら説明している動画があります。必見です!)

 

Modern Drummer Magazine Glenn Kotcheインタビュー   2020年4月号

 

https://www.moderndrummer.com/article/april-2020-wilcos-glenn-kotche/

 

 ドラムについての雑誌の記者として、それは今までで最も重大な「開封の儀」だった。まあ、ウィルコのドラム担当スタッフのアシュウィン・ディーパンカーが初公開しようとしていたあのキットがもしも僕たちのものであったら、ってことだけど。もちろんそれは僕たちのものではなかった。それは、これから1時間かそこら、ラジオシティミュージックホールの熱狂的なファンに向けてウィルコのディープで素晴らしいセットリストの一式に度肝を抜く効果を加えるために、叩き、擦り、引っ掻き、足を踏み鳴らし、はじき、ぴしゃりと打ち、優しく撫でさすり、そしてドカンと打とうとしている、グレン・コッチェのものだった。

 

 僕たち「モダン・ドラマー」誌は、コンサートの前にドラムセットを取材しないかとグレンから誘われていた。アシュウィンがあの有名なステージを横切って僕たちを大きなシートで覆われたセットへと連れて行く間、僕たちの期待は強烈に大きくなっていた。以前グレンはその中の細かいもののいくつかは教えてくれていたし、僕たちは既にウィルコの新譜「Ode to Joy」を聴いて、そのアルバムが身の引き締まるような清冽なドラムのパフォーマンスと、時には親しみのある、また時には全く新しい、万華鏡のようにくるくる変わるパーカッションの音にあふれているのを発見していたからだ。

 

 そのたくさんのパーカッションのなかでも、僕たちが実際に見て一番興奮したのはマーチングマシーンだった。ブーツを履いて行進する音を出すためのあまり知られていないパーカッションで、コリン・キャンベルとディーパンカーとグレンが足で操作できるように工夫したため、ドラムをフルに叩いている間も演奏できる。その音と同じくらいクールな楽器だ。いやたぶん、音以上に。しかもそれは単にグレンが「Ode to Joy」の各曲にユニークな味わいをもたらすために使ったたくさんの道具のなかの一つに過ぎない。これは僕たちが今までに聴いたもののなかで、ドラム演奏の立場から為された最高のアプローチかもしれない。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの名曲「Pale Blue Eyes」や「Venus in Furs」「I’m Set Free」などを思い浮かべてみてほしい。ただし、マックス・ローチのM・ブーム・アンサンブルのアレンジで。コッチェのアプローチは「Less is more / More is less」(より少ないほうが豊かであり、多く持つほど貧しくなる)の論争を、「音楽的であるかぎりどんな手段でもいいんだ」という、より誠実でエキサイティングな宣言と置き換えることで、本質的に嘲笑している。

 

 「モダン・ドラマー」誌の読者、なかでも2006年のMDフェスでのコッチェのパフォーマンスが記憶に焼き付いている人たちにとっては、彼が頭の中でイメージした音を実際に出すまでの距離の短さは神話になっているだろう。あれ以来彼は半ダース以上ものウィルコのスタジオ録音アルバムをレコーディングし、同様に一群の他のアーティストたちともレコーディングした(P42の補足記事参照)。そのすべてにおいて、彼は更なる音とリズムの到達点を探求している。また同時に、ダリン・グレイとのデュオ、オン・フィルモアとしての活動や、現代音楽のアンサンブル、ダンスグループ、その他のロックではないプロジェクトも続けていて、トータルな分野へとパーカッションのアプローチを広げている。

 

 だが、「開封の儀」に、いや正確には「除幕式」に戻ろう。僕たちが目を見張ったのは、ゴージャスな新しいSonor SQ2メイプルのドラムセットに加えて、目もくらむような一式 --- 既成の、または手作りの印象的な器具の数々、ハイハットにセットするユニークないくつものシェイカー、山と積まれたパーカッション、エレクトロニクス、アクセサリー…。その「王座」に飛び乗って演奏を始めたい、という強い衝動を抑えるのは難しい。

 

 しかし楽器そのものよりもっと重要なのは、コッチェが「Ode to Joy」のドラムパートを演奏するために展開した「振り付け」の方だろう。相当な多重録音を採用したアルバムが完成した後で、どうやってライブでその重ね録りされたパーカッションを再現しようとアプローチしたか、以下のインタビューで聞こうと思う。このドラマーがこの仕事をやり遂げるにあたって使った様々な道具を説明するだけで、また、彼がウィルコの愛されている曲の数々をオーディエンスの人生に届けるときのダンスしているような動きについて語るなら、30分以上は楽に費やしてしまうだろう。でももちろんそれは、グレン本人の口から聞く方がいいに決まっている…。

 

 

グレン:新譜の曲をどうやってステージで実際に演奏したらいいかという問題に取り組み始めたのは8月だった。ビデオを撮ってアシュウィンに送ったんだ。「このビートはこんな感じにしよう」みたいに。このレコードでは全部を多重録音していたから、ライブでやるためにはパートを合成しなければならなかったし、パーカッションのパートをスネアドラムやバスドラムに組み込む必要があった。だから、まず彼にアイディアを送って、その後実際に集まって、彼が修正したりレコードの音を再現するための物を作ったりした。

 

MD:それは曲を作ったりレコーディングしたりした後のことですね。

 

グレン:そうだよ。ジェフ・トゥイーディと僕は2018年12月に2週間、ウィルコのスタジオ、ロフトに集合した。彼が曲を演奏して、僕はそれにいくつかアイディアを加えた。基本的には、僕は自分がやることについては「白紙のカルテ」しか持っていなかった。僕たちがレコーディングをスタートした典型的なやり方は、まず彼が2つのドラムマシーンをペダルを通して演奏して、鼓動やいくつかのパートなんかをね、それからそれを僕が演奏するためのガイドとして使って、たぶんそれがバスドラムのパートで、彼がその上にギターパートを作って乗せていく、みたいに。それから僕がその上に音を重ねていったんだ。そして1月の終わりから2月にかけて他の皆がやってきて自分たちのパートをつけ足していった。

 

MD:それから、ライブでそれをどうやって演奏するか、というチャレンジがあった、と。

 

グレン:うん。それは夏だった。僕たちは実際18か月間演奏していなかったんだ。6月にヨーロッパツアーをやったけど新曲は全くやらなかったし。自分たちのフェス、ソリッドサウンドで2曲やったけど、一種の練習みたいなもので、僕が今ステージでやっているようなことは必ずしも必要ではなかった。

 

MD:すべての曲においてレコーディングのバージョンを作り直す計画が必要でしたか?

 

グレン:そうだよ。驚くべきことにね。だって僕は「こんなの簡単だ、ただの鼓動(パルス)なんだから」と思って先延ばしにしてたんだ。でもその後で悟ることになった。「なんてこった! ほとんど不可能に近いじゃないか!」って。僕にとって今までのプロフェッショナルの仕事として最も面白いことの一つが、これらのパートを再現することだった。つまり僕は実際には自分がレコーディングでやったことのすべてをやる必要はないんだ。もし小さなタンバリンのパートがなくなっていたって誰も気が付かないし気にもしないだろ? これをやったのは他の人のためじゃなくて、僕自身のため、バンドのメンバー達のためなんだ。なぜなら、ライブでもレコードと同じように聞こえたらいい気持ちがするからね。それはオーディエンスにとっても同じだと思うんだ。

 

MD:このレコードの多重録音されたドラムはすべての曲にあなたの個性というスタンプを押しているようなものですね。何回も聴いたあとでもあなたはまだ…

 

グレン:この音の重なりを発見し続けている。そのとおりだよ。

 

(続く)